HoLEPってどんな手術?
~「最後の手段」ではなく、生活を取り戻す選択肢~
前回は、前立腺肥大症の症状や潜んでいるリスク、治療についてお話ししました。
今回は、もう一歩踏み込んで、前立腺肥大症の「手術治療」という選択肢について解説します。手術というと「最後の手段」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし現在の手術治療は、身体への負担が大きく軽減されており、生活の質を取り戻すための前向きな選択肢として位置づけられています。
軽度の前立腺肥大症であれば、お薬でスムーズな排尿が得られることが多いですが、中等度以上の場合や、膀胱結石・膀胱炎などを合併している場合、お薬だけでは十分なコントロールが得られないこともあります。
また「お薬を飲んでいればまずまず良いが、飲み忘れるとおしっこの出が悪くなるのが困る」「一生お薬を飲み続けるのはストレス」とおっしゃる方もいらっしゃいます。そんな方々に提案するのが、今回お話しする、前立腺肥大症の手術治療です。
1. 手術治療の変遷
前立腺肥大症に対する手術は昔から行われていましたが、時代とともに変化し、患者さんの身体へのダメージがより軽くなるよう進化してきました。
| 治療法 | 時代背景 | 手術方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| 開腹手術 | 〜1980年代かつての主流 | 開腹手術 | 大きな前立腺でも確実に取り除ける | 身体への負担が大きい(出血が多い、お腹に傷ができる)入院期間が長い |
| TURP(経尿道的 前立腺切除術) | 1980年代〜長年の標準治療 | 内視鏡を使用し、電気メスで前立腺を削り取る | お腹を切らない長年の実績があり、多くの病院で実施可能 | 出血のリスクがある大きな前立腺には不向き |
| HoLEP(ホーレップ)当院で実施 | 2000年頃〜現在の主流 | 内視鏡を使用し、レーザーで前立腺をくり抜く | 出血が少ない大きな肥大にも対応可能再発率が低く、術後回復が早い | 手術手技の習得が必要(医師)医療用レーザー装置が必要 |
| WAVEUroliftAquablation | 2010年代後半〜最新のトレンド | 高温水蒸気・小型インプラント・高圧水流などで尿道を広げる | 日帰り手術が可能(WAVE, Urolift)射精機能を維持しやすい | 大きな前立腺には不向き再発リスクが HoLEP より高い長期的なデータが蓄積中 |
開腹手術
- 時代背景
- 〜1980年代かつての主流
- 手術方法
- 開腹手術
- メリット
- 大きな前立腺でも確実に取り除ける
- デメリット
- 身体への負担が大きい(出血が多い、お腹に傷ができる)入院期間が長い
TURP(経尿道的 前立腺切除術)
- 時代背景
- 1980年代〜長年の標準治療
- 手術方法
- 内視鏡を使用し、電気メスで前立腺を削り取る
- メリット
- お腹を切らない長年の実績があり、多くの病院で実施可能
- デメリット
- 出血のリスクがある大きな前立腺には不向き
HoLEP(ホーレップ)当院で実施
- 時代背景
- 2000年頃〜現在の主流
- 手術方法
- 内視鏡を使用し、レーザーで前立腺をくり抜く
- メリット
- 出血が少ない大きな肥大にも対応可能再発率が低く、術後回復が早い
- デメリット
- 手術手技の習得が必要(医師)医療用レーザー装置が必要
WAVEUroliftAquablation
- 時代背景
- 2010年代後半〜最新のトレンド
- 手術方法
- 高温水蒸気・小型インプラント・高圧水流などで尿道を広げる
- メリット
- 日帰り手術が可能(WAVE, Urolift)射精機能を維持しやすい
- デメリット
- 大きな前立腺には不向き再発リスクが HoLEP より高い長期的なデータが蓄積中
2. HoLEP(ホーレップ)とは? ~ミカンの果肉をくり抜くような手術~
石川病院では、現在の主流である HoLEP を採用しています。正式名称を「経尿道的ホルミウムレーザー前立腺核出術」といいます。「核出(かくしゅつ)」というのは、「内側だけくり抜く」というような意味です。
HoLEP は、前立腺を「ミカン」に例えるとイメージしやすいかもしれません。ミカンの厚い皮を残したまま、内側の果肉だけをスプーンでくり抜く——そんなイメージで、前立腺の外側(被膜)を残したまま、肥大して尿道を圧迫している内側部分のみをレーザーでくり抜きます。
具体的には、おしっこの出口(尿道口)から内視鏡を入れて、医療用レーザーで前立腺の内側(肥大して排尿の邪魔をしている部分)だけをくり抜き、尿道を広げて、おしっこの通りを良くする手術です。
従来の電気メスで削る手術(TURP)に比べ、出血が少なく、術後の回復も早いのが特長です。ご高齢の方でも治療可能(90歳以上の症例経験あり)で、入院期間も最短5日間です。
難点は、医師の手術スキル習得に時間を要することです。泌尿器科医1人当たりの年間 HoLEP 実施件数は5〜15件とされていますが、その中で50例程度で独り立ち、100例以上で熟練と言われています。石川病院の泌尿器科医は、200例近い症例経験があります。
3. 治療の多様化と HoLEP の位置づけ
最近、ニュースや健康雑誌などで「新しい内視鏡治療」として、以下の3つが紹介されています。
・WAVE(水蒸気治療):水蒸気の熱で肥大組織を壊死させる ・Urolift(ウロリフト):肥大した組織を特殊な糸で縛って道を作る ・Aquablation(アクアブレーション):高圧水噴射のロボットで精密に削る
これらは、手術時間の短縮や、射精障害などの性機能温存に優れているという明確なメリットがあります。一方で、日本泌尿器科学会のガイドライン等でも示されている通り、「前立腺の大きさによっては適応外となる」「長期的な再発率についてはまだデータ蓄積中」といった側面もあり、すべての方に万能というわけではありません。
「新しい内視鏡治療」が登場してもなお、HoLEP が標準治療として確立されている理由は、その確実性の高さにあります。
・サイズを選ばない:新しい内視鏡治療では対応が難しい大きな肥大にも適応可能です。 ・術後の症状改善:尿道を塞ぐ組織を取り除くことで、排尿症状の改善が期待できます。 ・再発リスクが低い:肥大組織を物理的に取り除くため、再発のリスクが低い治療法とされています。
4. 大切なのは「あなたに合った選択」をすること
「とにかく短時間で済ませたい」「性機能を温存したい」という方には新しい内視鏡治療(MIST:Minimally Invasive Surgical Treatment)が向いているかもしれませんし、「大きな肥大の根本的な治療を望む」方には HoLEP が適しているかもしれません。
当院では、患者さんの前立腺の大きさ、持病、そして「術後にどのような生活を送りたいか」という希望を伺った上で、適切な治療法をご提案しています。
5. 「手術を考えるサイン」を見逃さないで
「まだ我慢できるから」と先延ばしにするのではなく、以下のようなサインがあれば、一度手術を検討するタイミングかもしれません。
・お薬を飲んでいても、尿の勢いが改善しない ・残尿感があり、常に下腹部が重苦しい ・夜中に何度もトイレに起き、熟睡できない ・「尿閉(尿が全く出なくなる状態)」を一度でも経験した ・この先、毎日お薬を飲み続けることに抵抗がある
前回お伝えした通り、膀胱が「古くなったゴムボール」のように固まってしまう(一度こうなると元に戻りにくい)前に治療を行うことが、術後の経過を左右する一つの要素となります。
6. 手術は「自由」を取り戻すためのステップ
「旅行中に何度もトイレに行きたくないから、バス旅行は諦める」 「ゴルフの途中でトイレが心配だから、プレーに集中できない」 そんな風に、おしっこが原因で趣味や楽しみを制限していませんか?
手術の目的は、単に「おしっこを出やすくすること」だけではありません。生活の質(QOL)を取り戻すための一つの選択肢として、手術治療があります。
不安や疑問がある方は、まずは外来で、あなたの「生活の質」についてお聞かせください。一緒に治療の選択肢を考えていきましょう。