泌尿器科5

痛くない乳がん検診という、新しい選択肢

~番外編:無痛MRI乳がん検診(DWIBS)のお話~

石川 勉(副院長)

前回までは泌尿器科の専門的なお話をしてきましたが、今回は番外編として、多くの女性、そしてそのご家族に知っていただきたい「乳がん検診」の新しいカタチについてお話しします。

「なぜ泌尿器科で乳がんの話を?」と思われるかもしれません。私たち石川病院は、地域の皆さんが自分らしく、健やかな毎日を送るためのパートナーでありたいと考えています。その一環として、当院が導入している検査について、より多くの皆さんに知っていただきたいと考え、このテーマを選びました。

1.「いつか受けよう」を、後回しにしていませんか?

乳がんは、日本人女性が罹るがんの中で最も多く、生涯のうちに「9人に1人」が経験すると言われています(国立がん研究センター「がん統計」による生涯罹患リスクは約10.6%)。特に30代後半から増えはじめ、40代後半と60代前半に発症のピークがあります。仕事や家事、育児で忙しい世代が、発症の多い時期と重なります。実際、がんの部位別でみた死亡数では、30〜64歳の女性で乳がんが1位です。

一方で、乳がんは早期に発見して適切な治療を行えば、治癒が期待できるがんでもあります。だからこそ「検診」が大切なのですが、日本では40〜69歳の女性の受診率が約47.4%にとどまっています(2022年 国民生活基礎調査)。欧米の70〜80%と比べても低く、国は受診率60%を目標に掲げていますが、まだ達していません。

「大切なのは分かっている。でも、なかなか足が向かない」——そう感じている方は、決して少なくありません。では、なぜこれほど多くの方が検診をためらってしまうのでしょうか。

2. 検診が「ハードル」に感じられる理由

検診から足が遠のく理由として、よく次のような声が聞かれます。

・「痛い」:マンモグラフィで乳房を挟む際に、痛みを感じることがある ・「恥ずかしい」:上半身を脱いで検査を受けることに抵抗がある ・「時間が取れない」:待ち時間や着替えの手間が負担に感じる

こうした身体的・心理的な負担が、検診をためらわせる一因になっていると考えられます。

そして、もうひとつ知っておきたいのが「高濃度乳腺(デンスブレスト)」のことです。乳房は主に「乳腺組織」と「脂肪組織」で構成されますが、乳腺組織が多い状態を高濃度乳腺と呼びます。40歳以上の日本人女性の約4割が該当すると推測されており、特にアジア人は乳腺が多い傾向があるとされています(年齢とともに脂肪組織が増えるため、割合は変化します)。

マンモグラフィでは、乳腺もがんも白く写るため、高濃度乳腺の方では、がんが乳腺に隠れて見つけにくい場合があります。そのため、追加で超音波(エコー)検査が必要になることもあります。「せっかく受けたのに、はっきり分からなかった」という経験につながることもあるのです。

乳房の構成とがんの見えやすさ乳腺の量により脂肪性・乳腺散在・不均一高濃度・高濃度の4タイプに分かれ、後半2つを高濃度乳腺(デンスブレスト)と呼びます。乳腺が多いほど、マンモグラフィでがんが白い乳腺に隠れて見つけにくくなります。乳房の構成と、がんの見えやすさマンモグラフィでは、乳腺の量によって4つのタイプに分類されます脂肪性乳腺はほぼなし乳腺散在脂肪の中に散在不均一高濃度白い部分が多い高濃度ほぼ真っ白デンスブレスト乳腺が少ない乳腺が多いなぜ「見つけにくい」のか?がん脂肪性:がんが見つけやすいがん高濃度:がんが紛れてしまうマンモグラフィでは乳腺もがんも「白く」写ります
図:乳房の構成とがんの見えやすさ。当院作成

痛み、恥ずかしさ、時間、そして見つけにくさ——。こうしたハードルを、できるだけ取り除いた検査があります。

3. その「ハードル」を越える、新しい検査

従来の検診の弱点を補う方法のひとつが、当院でも採用している「無痛MRI乳がん検診(DWIBS/ドゥイブス法)」です。DWIBS法は、2004年に日本の放射線科医師・高原太郎先生が発表したMRIによる撮影方法で、強力な磁場を利用して臓器の内部を高精細に撮影します。放射線は使いません。

先ほどの「ハードル」に当てはめると、この検査の特徴が見えてきます。

・痛みが少ない:乳房を挟んだり圧迫したりしません。乳房型にくぼみのある専用ベッドに、うつ伏せになって検査します ・脱がなくてよい:乳房を挟む必要がないため、検査着を着たまま受けられます ・被ばくがない:X線を使わないため、放射線被ばくの心配がありません ・高濃度乳腺の影響を受けにくい:乳腺の量に左右されにくく、高濃度乳腺の方でも受けられます。乳房の奥や脇の下のリンパ節まで含めて調べられます ・乳房の手術後でも受けられる場合がある:乳房を挟まないため、手術後の方やインプラントが入っている方でも受けられる場合があります(一部、受けられない場合もあります)

検査でがんが見つかった人数についての報告もあります。ある報告では、無痛MRI乳がん検診の受診者1,000人あたり14.7人にがんが見つかりました。平均的なマンモグラフィの乳がん発見率は1,000人あたり約2.7人とされています。ただし、これらは異なる集団での結果であり、検査同士の性能を同じ条件で直接比較したものではない点にご注意ください。

マンモグラフィと無痛MRI乳がん検診の比較マンモグラフィは乳房を上下から挟んで圧迫し撮影します。無痛MRI乳がん検診は、うつ伏せでくぼみに乳房を収め、挟まずに撮影します。2つの検査、受け方のちがいマンモグラフィ圧迫圧迫上下から挟んで圧迫無痛MRI乳がん検診自然に収まる挟まずにくぼみへ圧迫による痛みを感じることがある死亡率を下げる効果が確認された基本の検査挟まないため痛みが少ない・検査着のまま被ばくなし・高濃度乳腺の影響を受けにくい
図:2つの検査の受け方の違い。当院作成

「痛くない・脱がない・被ばくがない」。良いことの多い検査ですが、正直にお伝えしておきたい点もあります。

4. 正直にお伝えしたいこと

無痛MRI乳がん検診は、現在のところ自治体の補助や健康保険の対象外で「自由診療」となります。料金は施設により約20,000円〜30,000円程度(当院は19,580円・税込)で、自治体の補助があるマンモグラフィ(無料〜2,000円程度)や乳房エコー(2,000円程度〜)と比べると、割高に感じられるかもしれません。

ここで大切にしたいのは、「どれが一番良い検査か」ではなく、「それぞれの検査に、それぞれの役割がある」という考え方です。お住まいの市町村が実施するマンモグラフィ検診は、乳がんの死亡率を下げることが確認されている、大切な検査です。当院のMRI乳がん検診は、これに代わるものではなく、痛みや高濃度乳腺が気になる方などにとっての、もうひとつの選択肢としてご利用いただくものです。

費用や受けやすさ、ご自身の乳房の状態などを踏まえて、納得のいく検診を選んでいただくことが、いちばん大切だと考えています。

では、この検査は、どこで受けられるのでしょうか。

5. あなたの街で、受けられます

無痛MRI乳がん検診を提供できる医療機関は、全国的にもまだ限られています。こうした検診は大都市圏に多く、地方では受診できる施設が少ないのが現状で、全国を見渡せば、受けられる施設がない県もあります。岡山県内では、当院を含む複数の施設で導入されています。

当院は、この地域で受診できる施設のひとつとして、遠方の都市部まで足を運ばなくても、身近な場所でこの検診を受けられる環境を整えました。地域の皆さんに、検診の選択肢をお届けしたいと考えています。

乳がんは、早期に発見できれば、自分らしい生活を続けながら治していくことが期待できる病気です。検診は「怖いもの」ではなく、これからの日常に安心を添えるための「大切な備え」です。もし、身近に乳がん検診をためらっているご家族や友人がいらっしゃったら、「痛くない検査もあるよ」と伝えてあげてください。私たちは、地域の皆さんの「これから」を支えていきます。

次回予告

第6回は、ある日突然、激しい痛みに襲われることもある「尿路結石」についてお話しします。

  • 尿管結石の原因と、典型的な症状
  • 「発熱」がある時は要注意 ― 受診を急ぐべき理由
  • 病院ではどのような検査を行い、どのように治療方針を決めるのか
  • 「痛みが引いたからもう大丈夫」と放置してしまうリスク